社会保険料と役員報酬の関係:標準報酬月額の決まり方と下げすぎの注意点
この記事の要点
- 社会保険料は、役員報酬そのものではなく「標準報酬月額」に保険料率を掛けて計算し、会社と本人が半分ずつ負担します。
- 報酬を変えても保険料はすぐには変わりません。大きく変えたときは4か月目から、それ以外は毎年9月に見直されます。
- 退職を理由に払う退職金は、社会保険料の対象になりません。ただし報酬を下げすぎると、将来の年金や傷病手当金も減ります。
役員報酬を決めるとき、所得税や法人税と同じくらい効いてくるのが社会保険料です。
会社負担と本人負担を合わせると、報酬のおよそ3割にもなります。どう決まり、いつ変わるのかを整理します。
保険料は「標準報酬月額」で決まる
社会保険料は、毎月の報酬を区切りのよい金額の幅(等級)に当てはめた「標準報酬月額」で計算します。
- 保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率
- その半分を会社が、残りの半分を本人が負担します(折半)。
- 賞与は、税引き前の支給額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率を掛けます。
社長1人の会社でも同じです。会社負担分も本人負担分も、元をたどれば同じ会社のお金から出ていきます。
東京都の協会けんぽに加入している40歳未満の場合を例に、月の保険料を計算しました。
| 標準報酬月額 | 健康保険(9.85%) | 厚生年金(18.3%) | 合計(会社+本人) | うち本人負担 |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 29,550円 | 54,900円 | 84,450円 | 42,225円 |
| 50万円 | 49,250円 | 91,500円 | 140,750円 | 70,375円 |
| 65万円 | 64,025円 | 118,950円 | 182,975円 | 91,487.5円 |
保険料率は例です。健康保険料率は都道府県や加入する健康保険組合、年度によって変わります。上の表は協会けんぽ東京都の令和8年3月分からの率(9.85%)で計算しています。40歳から64歳の方は介護保険料(1.62%)が加わり、令和8年4月分からは子ども・子育て支援金(0.23%)も加わります。出典:協会けんぽ 令和8年度保険料率、協会けんぽ 保険料額表(東京都)、日本年金機構 保険料の計算方法、日本年金機構 賞与の手続き
健康保険と厚生年金の上限
標準報酬月額には上限があります。上限を超えた部分には保険料がかかりません。上限は健康保険と厚生年金で違います。
| 健康保険 | 厚生年金 | |
|---|---|---|
| 標準報酬月額の等級 | 50等級(5万8千円〜139万円) | 32等級(8万8千円〜65万円) |
| 賞与の上限 | 年度の累計で573万円 | 1か月あたり150万円 |
役員報酬が月65万円を超えると、厚生年金の保険料はそこで頭打ちになり、健康保険の保険料だけが増えていきます。
この厚生年金の上限は、2025年の年金制度改正で段階的に引き上げられることが決まっています。
| 時期 | 厚生年金の標準報酬月額の上限 |
|---|---|
| 現在 | 65万円 |
| 2027年9月から | 68万円 |
| 2028年9月から | 71万円 |
| 2029年9月から | 75万円 |
月75万円以上の報酬を受け取っている方は、本人負担が月9,100円増える一方で、将来の年金も増えると厚生労働省は説明しています。会社負担も同じ額だけ増えます。
出典:日本年金機構 厚生年金保険の保険料、日本年金機構 賞与の手続き、厚生労働省 厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて
報酬を変えたら、保険料はいつ変わる?
標準報酬月額は、毎月の報酬に合わせて毎月変わるわけではありません。見直しのタイミングは主に2つです。
| 定時決定(算定基礎) | 随時改定 | |
|---|---|---|
| いつ行う | 毎年1回(7月1日時点) | 報酬が大きく変わったとき |
| もとにする報酬 | 4月・5月・6月の報酬の平均 | 変わった月から3か月の報酬の平均 |
| 条件 | 在籍している被保険者全員 | 固定的な報酬が変わり、標準報酬月額が2等級以上変わる |
| 新しい額の適用 | 9月から翌年8月まで | 変わった報酬を初めて受けた月から4か月目 |
役員報酬は、事業年度開始から3か月以内に改定するのが一般的です。たとえば4月から報酬を変えると、2等級以上の変化なら7月分の保険料から新しい額になります。
変化が1等級分にとどまるときは随時改定にならず、次の定時決定(9月分から)で反映されます。
なお、役員報酬は税務上、年の途中で自由に変えると損金にならない部分が出ます。改定できる時期と条件は定期同額給与と事前確定届出給与の記事で解説しています。
出典:日本年金機構 厚生年金保険の保険料、日本年金機構 随時改定
役員報酬を変えたとき、社会保険料と手取りがどう変わるかを一緒に計算します。
役員報酬と退職金の配分で保険料が変わる
退職を理由に、退職時に支払われる退職金は、健康保険と厚生年金の「報酬」にも「賞与」にも当たらないと、厚生労働省の通知で示されています。つまり退職金には社会保険料がかかりません。
そのため、毎月の報酬を少し抑え、その分を会社に残して将来の退職金に回すと、在任中の社会保険料は減ります。
例として、標準報酬月額を50万円から40万円に下げた場合です(上の表と同じ率、40歳未満)。
| 下げた報酬(月) | 10万円 |
|---|---|
| 保険料率(健康保険+厚生年金) | 9.85% + 18.3% = 28.15% |
| 減る保険料(月、会社+本人) | 10万円 × 28.15% = 28,150円 |
| 減る保険料(1年、会社+本人) | 28,150円 × 12か月 = 337,800円 |
うち半分の168,900円が会社負担、残りが本人負担の減少分です。
ただし、注意点が3つあります。
- 退職金は「退職を理由に支払うもの」が前提です。退職金の前払いとして在職中に給与や賞与に上乗せして支給するものは、報酬または賞与として扱われます。
- 役員退職金の相場は「最終の報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」で考えることが多く、報酬を下げすぎると退職金の目安も下がります。
- 退職金を払うには、会社に資金を貯めておく必要があります。
報酬と退職金のバランスの考え方は役員報酬の決め方の記事、退職金の目安は役員退職金の相場の記事や退職金シミュレーターで確認できます。退職金の準備方法はハーフタックスプランの記事でも触れています。
出典:厚生労働省 いわゆる退職金の前払いに係る社会保険料の取扱いについて(平成15年10月1日 保保発第1001002号ほか)
下げすぎると年金と傷病手当金が減る
社会保険料は「払うだけのもの」ではありません。標準報酬月額は、将来や万一のときに受け取る額のもとにもなります。
| 給付 | 標準報酬月額との関係 |
|---|---|
| 老齢厚生年金 | 在職中の標準報酬月額と標準賞与額をもとに計算。低いほど年金も少なくなる |
| 傷病手当金(健康保険) | 直近12か月の標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2が1日あたりの額。通算1年6か月まで |
| 障害厚生年金・遺族厚生年金 | 老齢厚生年金と同じく、それまでの報酬の記録をもとに計算 |
傷病手当金で見ると、標準報酬月額50万円なら1日あたり約11,100円、40万円なら約8,900円です。30日で約6万7千円の差になります。
社長が病気やけがで長く休むと、会社の売上と社長個人の生活費が同時に細ります。報酬を下げるときは、こうした保障の減少もあわせて考えておく必要があります。社長が働けなくなったときの備えは社長が病気で働けなくなったときの記事で解説しています。
傷病手当金の額は端数処理があるため概算です。役員報酬が休業中も支払われる場合、傷病手当金は減額または不支給になります。出典:協会けんぽ 傷病手当金について、厚生労働省 標準報酬月額の上限の段階的引上げについて
よくある質問
4月から役員報酬を下げたら、社会保険料はいつから下がりますか?
標準報酬月額が2等級以上下がる場合は、随時改定により、変わった報酬を初めて受けた月から4か月目(4月なら7月分)の保険料から下がります。1等級分の変化なら、9月分からの定時決定で反映されます。
役員退職金に社会保険料はかかりますか?
退職を理由に、退職時に支払われる退職金は、健康保険と厚生年金の報酬にも賞与にも当たらないと厚生労働省の通知で示されており、社会保険料はかかりません。退職金の前払いとして在職中に支給するものは報酬または賞与として扱われます。
役員報酬はできるだけ低くした方が得ですか?
保険料は減りますが、将来の厚生年金、傷病手当金、障害・遺族の厚生年金も少なくなります。役員退職金の目安も最終の報酬月額で考えることが多いため、下げすぎには注意が必要です。
LINEで友だち追加だけでもOKです。気になったことをLINEで気軽に質問できます。
強引な勧誘はしません ・ 全国オンライン対応 ・ 初回60分無料
この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。保険料率や標準報酬月額の等級は、都道府県・加入する健康保険・年度によって変わります。手続きの前に日本年金機構や加入する健康保険の案内でご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
