社長ががん・病気で働けなくなったら?会社に起きることと今からできる備え
この記事の要点
- 社長が長く休むと、売上と信用が落ちる一方で、役員報酬や固定費の支払いは続きます。
- 病気で職務が一部できなくなったときの役員報酬の減額は、国税庁のQ&Aで臨時改定事由として示されています。
- 社長も社会保険に入っていれば傷病手当金の対象になり得ますが、報酬が出ている間は支給されません。
事業保障というと「社長に万一のこと」を考えがちです。ですが、実際に多いのは、がんなどの病気で「生きているけれど働けない」状態です。
この状態は、亡くなったときとは違うお金の問題を生みます。会社に起きること、社長個人の公的な保障、今からできる備えを順に整理します。
社長が働けなくなると会社に起きること
中小企業では、営業も判断も社長に集中しがちです。社長が入院や治療で動けなくなると、次のようなことが同時に起こります。
| 分野 | 起きやすいこと |
|---|---|
| 売上 | 社長が持っていた取引先・案件が止まる。新しい受注が取れない。 |
| 信用 | 取引先や金融機関が「この先大丈夫か」と様子を見る。新しい融資の話が進みにくい。 |
| 支払い | 家賃・人件費・借入の返済は止まらない。 |
| 意思決定 | 契約・支払いの承認、銀行の手続きができる人がいない。 |
| 役員報酬 | 働けないのに払い続けるか、減らすか。減らすと社長個人の生活費が足りなくなる。 |
亡くなった場合と違い、治療が続く間は社長の生活費と治療費もかかります。会社と社長個人の両方で、収入が減って支出が続く期間をどう乗り切るかが問題になります。
役員報酬はどう扱う?減額のルール
毎月同じ額の役員報酬(定期同額給与)は、原則として期の途中で変えると、その差額分が損金(経費)にならないことがあります。期の途中で額を改定してよいのは、主に次の3つの場合です。
| 改定の種類 | 内容 |
|---|---|
| 通常改定 | 事業年度の開始から3か月以内に行う、毎年の改定 |
| 臨時改定事由 | 役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情による改定 |
| 業績悪化改定事由 | 経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による改定(減額に限る) |
国税庁の「役員給与に関するQ&A」では、役員が病気で入院し、当初予定されていた職務の執行が一部できなくなったときの減額は、臨時改定事由による改定と認められるとしています。退院して職務に戻ったときに元の額に戻すことも、臨時改定事由による改定とされています。
一方で、業績悪化改定事由には注意が必要です。国税庁は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことは「経営状況の著しい悪化」に含まれないとしています。
- 減額は株主総会などで正式に決め、議事録を残す
- 病気で職務ができない事実(入院・治療の期間など)を記録しておく
- 実際の判断は、顧問税理士と相談して進める
出典:国税庁 No.5211 役員に対する給与、国税庁 法人税基本通達 第3款 定期同額給与、国税庁 役員給与に関するQ&A(PDF)
役員報酬の決め方そのものは、役員報酬の記事でも解説しています。
社長が休んだとき、会社と社長個人でいくら足りなくなるかを一緒に計算します。
社長個人の公的保障を確認する
役員報酬を減らすなら、社長個人の生活費を何で支えるかを先に考えます。まず公的な保障を確認しましょう。
健康保険の傷病手当金
法人から報酬を受ける社長は、会社で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入します。協会けんぽの被保険者であれば、傷病手当金は次の4つの条件を満たすときに支給されます。
| 条件 | 1. 業務外の病気やケガの療養のための休業 2. 仕事に就くことができない 3. 連続する3日間(待期)を含み4日以上休んだ 4. 休業した期間に給与の支払いがない |
|---|---|
| 1日あたりの額 | 支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2 |
| 期間 | 支給開始日から通算して1年6か月 |
| 報酬との関係 | 給与が支払われている間は支給されない。傷病手当金より少ない額なら差額が支給される |
社長の場合のポイントは4つ目の条件です。役員報酬を満額払い続けている間は、傷病手当金は受けられません。報酬を減らしたときに、差額の分が対象になり得るという関係です。
例:標準報酬月額の平均が60万円の場合、60万円 ÷ 30 × 3分の2 = 1日あたり約13,333円。実際の額は端数処理や報酬の額で変わります。加入している健康保険組合によって扱いが異なる場合があるため、加入先でご確認ください。出典:協会けんぽ 傷病手当金、日本年金機構 年金Q&A(事業主の社会保険加入)
障害年金
障害年金は、がんも対象になります。厚生年金保険の被保険者である間に初診日があり、障害認定日に1級から3級に当てはまり、保険料の納付要件を満たすと、障害厚生年金が支給されます。
障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を過ぎた日です(その前に症状が固定した場合はその日)。日本年金機構の案内でも、傷病手当金を受けたあとに障害年金を受けることが考えられる、としています。
出典:日本年金機構 障害年金の対象となる病気やケガ、日本年金機構 障害厚生年金の受給要件、日本年金機構 障害認定日、日本年金機構 障害年金のご案内(PDF)
公的保障は「あるかどうか」だけでなく、「いつから、いくら」が大切です。傷病手当金は報酬との関係で受け取れないこともあり、障害年金は原則1年6か月待つ必要があります。この空白を会社と個人でどう埋めるかが、備えの中心です。
備えのチェックリスト
がんファイナンスアドバイザーとして相談を受ける中で、元気なうちに決めておくほど選択肢が多いと感じます。次の3つの分野で確認してください。
1. 委任・代行者
- 社長が不在のとき、誰が何を決めるかを決めている
- 銀行の手続き、支払いの承認を代われる人がいる
- 主要な取引先・金融機関の担当者と連絡先を、社内で共有している
- 契約書・借入の一覧・パスワードの保管場所を、信頼できる人が知っている
2. 資金
- 固定費(家賃・人件費・返済)の何か月分を手元に持っているか把握している
- 社長が休んだときに減る売上の目安を考えたことがある
- 社長個人の生活費と治療費を、何か月分まかなえるか確認している
3. 保険の種類
| 種類(一般名称) | 備える場面 |
|---|---|
| 就業不能保険 | 病気やケガで働けない状態が続くときの収入減 |
| がん保険 | がんと診断されたときや治療のときの費用 |
| 事業保障の保険(法人契約の死亡・重い病気の保障など) | 社長の死亡や重い病気で、会社の売上・返済資金が足りなくなるとき |
保障の範囲や支払いの条件は、保険によって大きく違います。「働けない状態」の定義や、支払いが始まるまでの期間は、加入前に必ず確認してください。
会社に必要な金額の考え方は、事業保障の必要保障額の記事で解説しています。数字を入れて目安を出すなら、必要保障額の無料ツールをお使いください。すでに入っている保険の見直しは、保険のセカンドオピニオンの記事も参考になります。
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よくある質問
社長が入院したので、期の途中で役員報酬を減らしてもよいですか?
国税庁の役員給与に関するQ&Aでは、病気で入院し、予定していた職務の執行が一部できなくなったときの減額は、臨時改定事由による改定と認められるとしています。株主総会などで正式に決め、記録を残したうえで、顧問税理士と相談して進めてください。
社長でも傷病手当金はもらえますか?
会社で健康保険に加入している被保険者であれば、条件を満たせば対象になり得ます。ただし給与(役員報酬)が支払われている間は支給されず、傷病手当金より少ない額なら差額が支給されます。加入している健康保険でご確認ください。
がんでも障害年金の対象になりますか?
日本年金機構は、がんも障害年金の対象になると案内しています。障害認定日は原則として初診日から1年6か月を過ぎた日で、障害の程度や保険料の納付要件などを満たす必要があります。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。役員報酬の改定や公的給付の可否は個別の事情で変わるため、税理士・加入先の健康保険・年金事務所などでご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
