法人保険を社長個人へ名義変更するときの税務|評価額・70%ルール・会社と個人の課税
この記事の要点
- 会社の保険を社長に名義変更すると、保険契約の「権利」を会社から受け取ったことになり、社長に所得税がかかります。評価額は原則として、その時点の解約返戻金の額です。
- 2021年7月1日以後の支給からは、解約返戻金が会社の資産計上額の70%未満の保険(一定のもの)は、資産計上額で評価します。解約返戻金が低い時期を選んでも、評価額は下がりません。
- 退職金の一部として渡せば退職所得、在任中に渡せば給与(役員給与)です。名義変更後に受け取る解約返戻金や保険金にも、別に税金がかかります。
社長が退任するときに、会社で入っていた保険を個人に引き継ぎたい、という相談があります。
契約者を会社から社長に変える「名義変更」は、税務では「会社が社長に保険の権利を渡した」と扱われます。この記事では、国税庁の通達で確認できる範囲で、評価額と課税の考え方を整理します。
名義変更は「保険の権利を渡す」こと
会社が契約者の保険は、会社の財産です。解約すれば、解約返戻金は会社に入ります。
この契約者を社長に変えると、会社の財産だった保険の権利が社長に移ります。所得税では、お金ではなく「物や権利」で受け取った場合も収入になります(所得税法36条)。
| 名義変更の前 | 名義変更の後 | |
|---|---|---|
| 契約者 | 会社 | 社長個人 |
| 保険料を払う人 | 会社 | 社長個人 |
| 解約返戻金を受け取る人 | 会社 | 社長個人 |
退職金の一部として、お金の代わりに保険の権利を渡す形を「現物支給」と呼びます。退職金の全体額をどう決めるかは、役員退職金規程の記事で解説しています。
評価額は原則、解約返戻金の額
会社が役員や社員に保険の権利を渡したときの評価は、所得税基本通達36-37で決まっています。
原則は、渡した時点で解約したとした場合に支払われる解約返戻金の額です。前納保険料や剰余金の分配額などがあれば、それも足します。通達ではこれを「支給時解約返戻金の額」と呼んでいます。
出典:国税庁 所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)
2021年7月からの見直し(70%ルール)
以前は、解約返戻金がとても低い時期に名義変更し、低い評価額で権利を移す例がありました。国税庁は通達を改正し、2021年(令和3年)7月1日以後に行う支給から、次の例外を設けました。
| 保険の状態 | 評価額 |
|---|---|
| 下の2つに当たらない | 支給時解約返戻金の額(原則) |
| 支給時解約返戻金の額が、支給時資産計上額の70%未満 | 支給時資産計上額 |
| 復旧できる払済保険など | 支給時資産計上額 + 払済保険にしたときに会社が損金にした額 |
「支給時資産計上額」は、渡す直前に、会社が保険料のうち前払い分として資産に計上すべき金額です。例外の対象は、法人税基本通達9-3-5の2の取扱いを受ける保険(2019年7月8日以後の契約で、最高解約返戻率が50%を超える定期保険や第三分野保険など)に限られます。
仮の数字で見てみます。
| 会社の資産計上額 | 1,000万円 |
|---|---|
| その70% | 700万円 |
| 名義変更時の解約返戻金 | 300万円(700万円未満) |
| 評価額 | 1,000万円(資産計上額) |
解約返戻金が低い時期を選んで名義変更しても、評価額は資産計上額になります。会社の帳簿の資産計上額は、保険積立金の記事で見方を説明しています。
組込型保険で、会社が継続して法人税基本通達9-3-4(1)の取扱いで保険料を処理している場合は対象外とされています。出典:国税庁「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(令和3年6月25日)、同 通達の解説(PDF)、タックスアンサーNo.5364
会社の保険が70%ルールに当たるか、保険証券と決算書で一緒に確認します。
会社側と社長側の課税
同じ名義変更でも、いつ、どんな名目で渡すかで課税が変わります。
| 退職金の一部として渡す | 在任中に渡す | |
|---|---|---|
| 社長側 | 退職所得。評価額を退職金の収入に含めて計算 | 給与所得(役員給与) |
| 会社側の損金 | 役員退職給与として、適正な額は損金。原則は株主総会の決議などで額が確定した事業年度 | 定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに当たらなければ損金にならない |
退職所得は「(収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1」で計算します。役員としての勤続年数が5年以下の場合は、2分の1になりません。詳しくは退職所得控除の記事をご覧ください。手取りの目安は退職金の手取り計算ツールで試算できます。
会社側では、帳簿に載っている保険の資産計上額を取り崩します。退職金として扱う額は、通達の評価額です。評価額と資産計上額に差があれば、その差は会社の損益に出ます。具体的な仕訳は顧問税理士と確認してください。
退職所得には源泉徴収があります。保険の権利だけを渡す場合、会社が源泉徴収する税額をどう用意するかも事前に決めておく必要があります。出典:タックスアンサーNo.1420 退職金を受け取ったとき、No.5208 役員退職金の損金算入時期、No.5211 役員に対する給与
名義変更後に受け取るお金の課税
名義変更の後は、社長個人が契約者として保険料を払います。その後に受け取るお金は、契約の形に応じて課税されます。
| 受け取るもの | 契約の形 | 税金の種類 |
|---|---|---|
| 解約返戻金・満期保険金 | 契約者(保険料負担者)=受取人=社長 | 所得税(一時所得) |
| 死亡保険金 | 被保険者=保険料負担者=社長、受取人=家族 | 相続税 |
| 死亡保険金 | 保険料負担者=受取人(被保険者は別の人) | 所得税 |
| 死亡保険金 | 被保険者・保険料負担者・受取人がすべて別の人 | 贈与税 |
一時所得は「(受け取った額 − 払い込んだ保険料 − 特別控除50万円)× 2分の1」が課税の対象です。
注意したいのは、名義変更の前に会社が払った保険料です。誰が負担した保険料として差し引けるかで、一時所得や相続税の計算が変わります。所得税基本通達34-4では、受け取る人が自ら負担したと認められる保険料などを差し引けるとしています。実際の計算は、受け取る前に税務署や税理士に確認してください。
出典:タックスアンサーNo.1755、No.1750 死亡保険金を受け取ったとき、所得税基本通達34-4
名義変更は、税金を減らすための手段として考えるものではありません。保険を個人で持ち続ける必要があるか、個人で保険料を払えるかを先に考えます。法人契約と個人契約の違いは個人契約と法人契約の比較記事、今の保険の見直しは法人保険のセカンドオピニオンの記事で解説しています。
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よくある質問
名義変更したときの保険の評価額はいくらですか?
原則は、名義変更した時点で解約したとした場合の解約返戻金の額です。ただし2021年7月1日以後の支給では、解約返戻金が会社の資産計上額の70%未満の一定の保険は、資産計上額で評価します。
解約返戻金が低い時期に名義変更すれば、評価額を低くできますか?
最高解約返戻率が50%を超える定期保険など一定の保険では、解約返戻金が資産計上額の70%未満なら資産計上額で評価するため、評価額は下がりません。この見直しは2021年7月1日以後の支給から適用されています。
名義変更した保険を後で解約すると、税金はどうなりますか?
社長が契約者で受取人なら、解約返戻金は一時所得です。受け取った額から払い込んだ保険料と特別控除50万円を引き、その2分の1が課税の対象です。名義変更前に会社が払った保険料の扱いは、事前に確認が必要です。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。税務の取扱いは契約内容や支給の経緯によって異なり、また変わることがあるため、実行の前に顧問税理士や税務署でご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
