代償分割の資金を生命保険で用意する方法|自社株を後継者に集めるときの相続対策
この記事の要点
- 代償分割は、後継者が自社株などを受け継ぎ、ほかの相続人にお金(代償金)を払って差を埋める分け方です。後継者に払えるだけのお金が必要です。
- 相続税の計算では、払った人は取得した財産から代償金を差し引き、受け取った人は代償金を加えて課税価格を出します。
- 後継者を受取人にした生命保険は、代償金の原資になります。受取人の決め方しだいで役に立たないこともあるので、設計の順番が大切です。
会社を継ぐ子に自社株や事業用の土地を集めたい。社長なら多くの方が考えることです。
ただ、それだけでは、会社を継がない子との間で受け取る財産に大きな差が出ます。この差をどう埋めるかを、今のうちに決めておく必要があります。
後継者に財産を集めると何が起きるか
社長の財産は、自社株や会社に貸している土地・建物など、分けにくいものに偏りがちです。
- 自社株を兄弟で分けると、議決権が割れて経営が不安定になります。
- 事業用の土地を共有にすると、売却や建て替えのたびに全員の意見をそろえる必要があります。
- 後継者に全部集めると、ほかの相続人の取り分が少なくなり、話し合いがまとまりにくくなります。
そこで使われるのが、財産は後継者にまとめ、差額はお金で調整する「代償分割」です。自社株の評価額の目安は自社株の相続税評価の記事で解説しています。
代償分割とは
裁判所は、遺産の分け方として次の4つを示しています。
| 分け方 | 内容 | 自社株・事業用不動産との相性 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 遺産そのものを分ける | 分けると経営や管理が割れやすい |
| 代償分割 | 1人または数人が遺産を取得し、ほかの相続人に代償金を払う | 後継者にまとめられる。代償金の資金が必要 |
| 共有分割 | 複数の相続人が共有で取得する | 将来、意見が食い違うと問題になりやすい |
| 換価分割 | 遺産を売って代金を分ける | 会社を続けるなら使いにくい |
代償分割には大きな条件があります。代償金を払う相続人に、払うだけの資力がなければなりません。代償金の金額は、相続人の話し合いで決めます。
出典:京都家庭裁判所 遺産分割Q&A、岡山家庭裁判所 遺産分割手続Q&A(PDF)
代償金と相続税の課税価格
国税庁は、代償分割をしたときの課税価格を次のように計算するとしています。
| 課税価格の計算 | |
|---|---|
| 代償金を払った人 | 取得した財産の価額 - 払った代償金の価額 |
| 代償金を受け取った人 | 取得した財産の価額 + 受け取った代償金の価額 |
説明のための仮の数字で見てみます。相続人は子A(後継者)と子Bの2人、遺産は自社株4,000万円と預金1,000万円、どちらも相続税評価額と時価が同じとします。Aが自社株、Bが預金を取得し、AがBに代償金1,500万円を払う場合です。
| 子A(後継者) | 子B | |
|---|---|---|
| 取得した財産 | 自社株 4,000万円 | 預金 1,000万円 |
| 代償金 | -1,500万円 | +1,500万円 |
| 課税価格 | 2,500万円 | 2,500万円 |
代償金が時価をもとに決められ、財産の相続税評価額と時価に差があるときは、代償金の額を「相続税評価額 ÷ 時価」の割合で調整して計算します。土地や自社株は評価額と時価がずれやすいので、税理士に確認してください。
出典:国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
相続税がかかるかどうかの境目は、相続税の基礎控除の記事や相続税の無料試算ツールで確認できます。
自社株と事業用不動産の偏りがどのくらいあるか、代償金がいくら必要かを一緒に整理します。
生命保険で代償金の原資を作る
問題は、後継者が代償金を手元のお金で払えるかどうかです。会社を継いだばかりの後継者が、数千万円を用意するのは簡単ではありません。
そこで、社長を被保険者、後継者を受取人とする生命保険を用意しておく方法があります。
差額を出す
後継者に集める財産と、ほかの相続人の取り分の差を出します。
代償金を決める
遺言書などで、誰がいくら払うかの方針を決めます。
受取人を後継者に
代償金に見合う保険金を、後継者が受け取る形にします。
後継者が支払う
受け取った保険金を原資に、代償金を払います。
社長が保険料を払い、相続人が受け取る死亡保険金には、相続税の非課税限度額があります。
| 非課税限度額 | 500万円 × 法定相続人の数 |
|---|---|
| 対象になる人 | 相続人(相続を放棄した人などは含まれません) |
| 法定相続人の数 | 放棄した人がいても、放棄がなかったものとして数えます。養子は実子がいれば1人まで、いなければ2人まで |
先ほどの例で、後継者Aを受取人とする保険金が1,500万円なら、法定相続人2人分の1,000万円が非課税限度額です。超えた500万円は相続税の計算に入ります。
相続人全員が受け取った保険金の合計が限度額を超えると、超えた部分が課税の対象です。出典:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
契約者・被保険者・受取人の組み合わせで、かかる税金の種類が変わります。詳しくは生命保険と相続税の記事をご覧ください。
受取人の決め方の注意点
裁判所の説明では、相続人が受取人に指定されている場合、生命保険金はその相続人固有の財産になり、遺産にはなりません。
この性質は、受取人の決め方によって効き方が変わります。
後継者を受取人にする
- 保険金は後継者の手元に入る
- それを原資に代償金を払える
- 払った代償金は遺産分割の中での調整になる
ほかの相続人を受取人にする
- 保険金はその人固有の財産で、遺産にならない
- 後継者の手元にお金が残らない
- 遺産の分け方の差は、そのまま残るおそれがある
「後継者以外の子に保険を残せば公平になる」と考えがちですが、遺産の分け方とは別のお金として扱われます。代償金の原資にしたいなら、受取人は払う側の後継者にしておくのが基本です。
受取人の考え方は保険の受取人の記事、代償金の方針を書き残す方法は社長の遺言書の記事で解説しています。
保険金の額が大きい場合の遺産分割での扱いや遺留分との関係など、個別の法律判断は弁護士などの専門家にご相談ください。
よくある質問
代償金を受け取った相続人にも相続税はかかりますか?
国税庁の説明では、代償金を受け取った人は、取得した財産の価額に受け取った代償金の価額を加えて課税価格を計算します。払った人は、取得した財産の価額から代償金の価額を差し引きます。
後継者以外の子を保険金の受取人にすれば、公平になりませんか?
相続人が受取人に指定された保険金は、その相続人固有の財産になり、遺産にはなりません。遺産の分け方の差を埋めるための代償金の原資にはならないため、目的に合わせて受取人を決めることが大切です。
死亡保険金の非課税限度額はいくらですか?
500万円に法定相続人の数をかけた額です。対象は相続人が受け取った保険金で、相続を放棄した人などは含まれません。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。遺産分割や遺留分などの法律判断は弁護士に、税額の計算は税理士にご確認ください。税制や制度は変わることがあります。内容は2026年10月時点のものです。
