自社株の相続税評価のしくみ:評価が下がるタイミングとは
この記事の要点
- 後継者となるご家族など同族株主等が株を受け取る場合は、ほとんどが原則的評価方式です。社員など同族株主以外は配当還元方式で評価します。
- 原則的評価方式には類似業種比準方式と純資産価額方式があり、会社の大きさ(大会社・中会社・小会社)でどちらをどれだけ使うかが決まります。
- 評価のもとになる「配当」「利益」「純資産」が一時的に小さくなると評価は下がりやすく、とくに社長が退任して役員退職金を受け取る期が大きなタイミングです。
「うちの会社の株、相続のときにいくらになるのか分からない」。事業承継を考え始めた社長からよく聞くお悩みです。
上場していない会社の株は、市場の値段がありません。そのため、相続や贈与のときは国税庁が決めたルールで評価します。しくみを知ると、評価が上がりやすい時期と下がりやすい時期が見えてきます。
自社株の評価は「誰が持つか」で方式が変わる
まず、株を受け取る人が会社を支配する立場かどうかで、評価の方式が分かれます。
| 受け取る人 | 評価の方式 | 考え方 |
|---|---|---|
| 同族株主等(社長の家族など) | 原則的評価方式 | 会社の利益や財産をもとに評価する |
| 同族株主以外(社員や取引先など) | 配当還元方式 | 受け取る配当をもとに評価する |
配当還元方式は、1年間に受け取る配当の額を10%の利率で割り戻して、株の値段を出す方法です。会社の規模には関係なく使われます。
後継者となるご家族が株を受け取る場合は、ほとんどが原則的評価方式です。この記事では、主にこちらを説明します。
同族株主に当たるかどうかは、議決権の割合や親族関係で決まります。判定は細かいため、税理士に確認してください。
会社の大きさで決まる3つの評価方法
原則的評価方式には、2つの計算方法があります。
| 計算方法 | 何をもとにするか |
|---|---|
| 類似業種比準方式 | 同じ業種の上場会社の株価をもとに、自社の「配当」「利益」「純資産(帳簿の金額)」の3つを比べて計算する |
| 純資産価額方式 | 会社の財産と負債を相続税の評価に置き直し、財産から負債と含み益にかかる法人税等相当額を引いて計算する |
どちらをどれだけ使うかは、会社の大きさ(大会社・中会社・小会社)で決まります。
大会社
原則は類似業種比準方式。純資産価額方式を選ぶこともできます。
中会社
2つの方式を併用します。大きい会社ほど類似業種比準方式の割合が高くなります。
小会社
原則は純資産価額方式。類似業種比準方式と半分ずつの併用も選べます。
会社の大きさの区分
従業員数が70人以上なら大会社です。70人未満の会社は、総資産(帳簿の金額)と従業員数、1年間の取引金額(売上高)で判定します。
| 業種 | 大会社になる目安 | 中会社になる目安 |
|---|---|---|
| 卸売業 | 総資産20億円以上(従業員35人以下を除く)または取引金額30億円以上 | 総資産7,000万円以上(従業員5人以下を除く)または取引金額2億円以上 |
| 小売・サービス業 | 総資産15億円以上(従業員35人以下を除く)または取引金額20億円以上 | 総資産4,000万円以上(従業員5人以下を除く)または取引金額6,000万円以上 |
| それ以外の業種 | 総資産15億円以上(従業員35人以下を除く)または取引金額15億円以上 | 総資産5,000万円以上(従業員5人以下を除く)または取引金額8,000万円以上 |
どちらにも当たらなければ小会社です。中会社は、この中でもさらに3段階に分かれ、類似業種比準方式を使う割合(90%・75%・60%)が変わります。
土地や株式などの資産の割合がとても高い会社、開業から3年未満の会社などは「特定の評価会社」として、別の方法で評価します。
決算書をもとに、自社株の評価がどの方式になりそうか、どこが評価を動かしているかを一緒に整理します。
評価が下がりやすいタイミング
評価のもとになる数字は「配当」「利益」「純資産」です。どれかが一時的に小さくなると、評価も下がりやすくなります。
| タイミング | 動く数字 | しくみ |
|---|---|---|
| 利益が下がった期 | 利益 | 類似業種比準方式は、直前の期の利益(法人税の課税所得がもと)を使うため |
| 役員退職金を払った期 | 利益・純資産 | 退職金は会社の費用(損金)になり、利益と会社の財産がともに減るため |
| 配当を出していない期 | 配当 | 類似業種比準方式の配当は、直前2年間の配当の平均を使うため |
| 同じ業種の上場株価が下がったとき | 比べる株価 | 類似業種の株価が下がると、比べて出す自社株の評価も下がるため |
とくに大きいのが、社長が退任して役員退職金を受け取る期です。利益と純資産の両方が減るため、その期の決算のあとは評価が下がりやすくなります。この時期に後継者へ株を贈与する、という考え方はここから来ています。
ただし、実際にどれだけ下がるかは会社ごとに違います。退職金の額の考え方は役員退職金の相場の記事で解説しています。
利益の計算では、固定資産の売却益や保険差益など、一時的な利益は除かれます。利益は、直前2年間の平均を選ぶこともできます。
下がるタイミングを使う流れ
今の評価を知る
直近の決算書で、税理士に株価を試算してもらいます。
動く数字を知る
利益・配当・純資産のどれが評価を押し上げているかを見ます。
時期を決める
退任や大きな支出の予定と、贈与の時期を並べます。
後継者に渡す
決算後の評価を確認して、贈与や譲渡を行います。
動く前に確認しておきたいこと
気をつけること
- 評価を下げることだけを目的にした不自然な取引は、税務署に認められないことがある
- 役員退職金は、額が高すぎると損金にならないことがある
- 会社の大きさの区分が変わると、評価の方法そのものが変わる
あわせて考えること
- 退職金の財源をどう準備するか
- 相続税を払うお金(納税資金)をどう準備するか
- 後継者以外のご家族との公平をどう保つか
退職金や納税資金の準備には、法人保険や法人での資産運用を使う方法があります。ご家族への分け方は生命保険の相続対策の記事もご覧ください。
なお、国税庁では2026年4月から、取引相場のない株式の評価方法について有識者会議での検討を始めています。今後ルールが変わる可能性があるため、最新の内容を確認しながら進めることが大切です。
株価の計算は、決算書の細かい数字や株主の構成で変わります。実際の評価額は、必ず顧問税理士に確認してください。
出典:国税庁 タックスアンサー No.4638 取引相場のない株式の評価、財産評価基本通達 178・179・180〜183・185〜188-2、タックスアンサー No.5211 役員に対する給与、取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 資料
よくある質問
退職金を払った後に株を贈与すれば、評価は必ず下がりますか?
利益と純資産の両方が減るため下がりやすくなりますが、実際にどれだけ下がるかは会社ごとに違います。実際の評価額は、必ず顧問税理士に確認してください。
うちの会社が大会社・中会社・小会社のどれに当たるかは、何で決まりますか?
従業員数が70人以上なら大会社です。70人未満の会社は、総資産(帳簿の金額)と従業員数、1年間の取引金額(売上高)で判定します。
株の評価を下げるために、取引を工夫しても大丈夫ですか?
評価を下げることだけを目的にした不自然な取引は、税務署に認められないことがあります。
LINEで友だち追加だけでもOKです。気になったことをLINEで気軽に質問できます。
強引な勧誘はしません ・ 全国オンライン対応 ・ 初回60分無料
この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の税務判断を行うものではありません。自社株の評価や贈与・相続の手続きは、顧問税理士にご確認ください。内容は2026年9月時点のものです。
