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社長こそ遺言書を:自筆証書・公正証書・秘密証書の違いと、自社株・遺留分の注意点

公開:更新:執筆:五十嵐 大輔(AFP)

この記事の要点

  • 遺言書は主に3種類。自筆証書は法務局に預ければ(手数料3,900円)検認が不要になり、公正証書は原本が公証役場に保管され検認も不要です。
  • 遺言がないと、自社株は相続人全員の話し合いで分けることになり、後継者に集まらないおそれがあります。
  • 自社株を後継者に集めても遺留分は残ります。経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」で、自社株を遺留分の計算から外す方法があります。

「遺言書はまだ早い」と考える社長は少なくありません。

ですが、会社の株を持つ社長の相続は、家族だけの問題ではありません。株が誰に渡るかで、会社の経営が左右されます。遺言書の種類と、社長ならではの注意点を整理します。

社長が遺言書を書いておくべき理由

遺言がない場合、財産は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で分けます。自社株も同じです。

遺言書があれば、「自社株は後継者に、その他の財産は家族に」といった社長の意思を形にできます。日本公証人連合会も、遺言があると相続人が被相続人の意思を尊重して遺留分の主張を思いとどまる場合もある、と説明しています。

遺言を書く前に、家族と考えを共有しておくことも大切です。進め方は社長の家族会議の進め方で解説しています。

遺言書の3つの種類を比べる

自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
作る人本人が全文・日付・氏名を自書し押印(財産目録はパソコン可)公証人が作成。証人2人が立ち会う本人が作り封印。パソコンや代筆も可
保管自宅など。法務局に預けることもできる原本は公証役場に保管本人が保管
家庭裁判所の検認必要(法務局に預けた場合は不要)不要必要
内容の確認本人まかせ公証人が関与公証人は内容を確認できない
費用法務局に預けるなら3,900円財産額に応じた公証人手数料公証人手数料

自筆証書遺言は手軽ですが、日付を「吉日」と書くなど形式の誤りで無効になるおそれがあります。自宅保管なら、紛失や改ざんの心配も残ります。

秘密証書遺言は内容を秘密にできる一方、法務局の保管制度は使えず、検認が必要です。公証人が内容を確認しないため、法律的な不備が残る危険もあります。

出典:日本公証人連合会 遺言、法務省 遺言書の様式等についての注意事項

自筆証書遺言書保管制度(法務局)

自分で書いた遺言書を、法務局(遺言書保管所)に預ける制度です。原本と画像データが保管されます。

預け先住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局
手続き遺言者本人が出向く(予約制)。代理人や郵送での申請はできない
手数料保管の申請1件につき3,900円(収入印紙)
相続のとき家庭裁判所の検認が不要。相続人は遺言書情報証明書(1通1,400円)を取得できる
通知死亡後、遺言者が指定した人(最大3名)に保管されていることが通知される

用紙はA4で、片面のみに書き、決められた余白をとります。ホチキスで留めず、封筒にも入れずに持参します。

注意点は、法務局は遺言の内容についての相談に応じないことです。形式を確認して預かる制度で、内容が有効かどうかまでは見てもらえません。

出典:法務省 自筆証書遺言書保管制度、法務省 手数料、法務省 制度の案内

自社株を含めた財産の全体像と、誰に何を残すかの整理をお手伝いします。

公正証書遺言と、2025年10月からの変更

公正証書遺言は、公証人が作成し、証人2人が立ち会います。原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのおそれがなく、検認も要りません。相続が始まったらすぐに手続きに入れます。

公証人手数料は政令で決まっており、財産の額に応じて計算します。財産全体が1億円以下のときは、11,000円が加算されます(遺言加算)。相談は無料です。

令和7年(2025年)10月1日から、公正証書の作成手続きがデジタル化されました。法務省の資料で確認できた主な変更点は次のとおりです。

項目変更後
作成・保存原則として電子データで作成・保存
署名署名押印に代えて電子署名を用いる
立ち会い本人が希望し、公証人が相当と認めれば、ウェブ会議で手続きできる
受け取り正本などを電子データで受け取ることもできる(書面も可)

ウェブ会議での作成は、対応する公証役場が限られる場合があります。利用したいときは、事前に公証役場へ確認してください。

出典:日本公証人連合会 遺言、法務省 公正証書に係る一連の手続のデジタル化について

自社株を後継者に集めるときの遺留分

遺言で「自社株はすべて後継者に」と書いても、他の相続人には遺留分があります。遺留分は、一定の相続人に法律で保障された最低限の取り分です。

遺留分の請求はお金で行われます。自社株を受け継いだ後継者が、他の相続人にまとまったお金を払う必要が出てくることがあります。生前贈与した自社株も遺留分の計算に入るため、贈与後に株価が上がると、請求額も膨らみます。

自社株がいくらと評価されるかは、自社株の評価のしくみをご覧ください。後継者の納税資金や、遺留分を払う資金の準備も合わせて考えておくと安心です。

出典:裁判所 遺留分侵害額の請求調停、法務省 相続法の改正

遺留分に関する民法の特例(経営承継円滑化法)

中小企業の後継者が自社株を集めやすくするための特例です。推定相続人全員で合意し、国と家庭裁判所の手続きを経ると、次の効果が生まれます。

除外合意固定合意
内容贈与した自社株を、遺留分の計算から外す贈与した自社株の価額を、合意したときの時価で固定する
効果自社株について遺留分の主張ができなくなるその後に株価が上がっても、遺留分の計算に影響しない

主な要件と手続きの流れです。

会社中小企業者で、3年以上継続して事業を行っている非上場会社
先代経営者過去または合意時点で会社の代表者であること
後継者合意時点で代表者であり、贈与などで議決権の過半数を持っていること
手続き1推定相続人全員で合意し、合意書を作る
手続き2合意から1か月以内に経済産業大臣の確認を申請
手続き3確認を受けてから1か月以内に家庭裁判所へ許可を申し立てる

全員の合意が前提なので、家族の理解が欠かせません。親族内承継・従業員承継・M&Aの違いは事業承継の3つの形で解説しています。相続税の目安は相続税の無料試算ツールや相続税の基礎控除の記事でつかめます。

出典:中小企業庁 遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)、中小企業庁 経営承継円滑化法による支援

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よくある質問

自筆証書遺言を法務局に預けると、内容もチェックしてもらえますか?

いいえ。法務局(遺言書保管所)は遺言の内容についての相談には応じていません。内容に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談するか、公証人が関与する公正証書遺言を検討してください。

遺言で自社株をすべて後継者に渡せば、遺留分の心配はなくなりますか?

なくなりません。配偶者や子などには遺留分があり、侵害されたときはお金での支払いを請求できます。経営承継円滑化法の民法特例で、推定相続人全員の合意により自社株を遺留分の計算から外したり、価額を固定したりする方法があります。

公正証書遺言はウェブ会議でも作れますか?

令和7年10月1日から、本人が希望し公証人が相当と認めた場合に、ウェブ会議で手続きできるようになりました。対応する公証役場が限られる場合があるため、事前に公証役場へ確認してください。

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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。遺言の有効性や遺留分、民法特例の適用などの法律判断は、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。手数料や制度の内容は変わることがあるため、法務局・公証役場・中小企業庁の案内でご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。

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