自社株を後継者に渡す方法:贈与・売買・相続の比較
この記事の要点
- 自社株の渡し方は、贈与・売買・相続の3つ。誰がいくら税金を払うか、後継者にお金が必要かが大きく違います。
- 贈与は「暦年課税(年110万円の基礎控除)」と「相続時精算課税(特別控除2,500万円+2024年からの年110万円の基礎控除)」から選びます。
- 売買は社長に譲渡益の20.315%がかかり、後継者に買取資金が必要です。時価より著しく安く売ると、差額が後継者への贈与とみなされます。
会社を後継者に引き継ぐとき、最後に残るのが「社長が持っている自社株をどう渡すか」です。
渡し方は贈与・売買・相続の3つです。税金のかかり方、必要なお金、時期の決めやすさがそれぞれ違います。表で比べながら説明します。
3つの方法を一覧で比べる
| 贈与 | 売買 | 相続 | |
|---|---|---|---|
| かかる税金 | 後継者に贈与税 | 社長に譲渡所得の税金 | 後継者に相続税 |
| 後継者のお金 | 納税資金が必要 | 買取資金が必要 | 納税資金が必要 |
| 社長のお金 | 増えない | 代金が入る(相続財産になる) | なし |
| 時期 | 自分で決められる | 自分で決められる | 決められない |
| 株の評価 | 贈与した時点 | 売買した時点 | 亡くなった時点 |
どの方法でも、出発点は自社株の評価額です。評価のしくみは自社株の相続税評価のしくみで解説しています。
贈与(暦年課税)
1年間(1月1日から12月31日)にもらった財産の合計から、基礎控除110万円を引いた残りに贈与税がかかります。
父母や祖父母から、その年の1月1日に18歳以上の子や孫がもらう場合は、税率の低い「特例税率」を使います。
| 基礎控除後の課税価格 | 特例税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | なし |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
計算例(特例税率):評価額500万円の株を1年で贈与すると、(500万円-110万円)×15%-10万円=48.5万円です。1,000万円なら(1,000万円-110万円)×30%-90万円=177万円になります。
少しずつ何年にも分けて渡すのに向く方法です。ただし、亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に足し戻されます。2024年1月1日以後の贈与から、この期間が3年から7年へ段階的に延びています(延びた4年間の分は合計100万円まで足し戻しません)。
出典:国税庁 タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)、No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
贈与(相続時精算課税)
60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫が贈与を受けるときに選べる制度です。
| 基礎控除 | 年110万円(2024年1月1日以後の贈与) |
|---|---|
| 特別控除 | 累計2,500万円まで |
| 税率 | 控除を超えた部分に一律20% |
| 相続のとき | 贈与した財産を、贈与時の価額で相続財産に足して相続税を精算(年110万円の基礎控除分は足さない) |
| 届出 | 最初の贈与の翌年2月1日から3月15日までに届出書を提出 |
| 変更 | 一度選ぶと、その贈与者からの贈与は暦年課税に戻せない |
計算例:評価額3,000万円の株を1年で贈与すると、(3,000万円-110万円-2,500万円)×20%=78万円です。
相続のときは「贈与時の価額」で足し戻すため、業績が伸びて株価が上がりそうな会社では、早めに渡すことで上がった後の価額での課税を避けられます。逆に、贈与後に株価が下がっても、贈与時の高い価額で精算されます。
出典:国税庁 タックスアンサー No.4103 相続時精算課税の選択
暦年課税と相続時精算課税、どちらが合うかは株価の見通しとご家族の状況で変わります。一緒に整理します。
後継者への売買
後継者が株を買い取る方法です。社長には売却益(譲渡所得)の税金がかかります。
- 譲渡所得=売った価額-取得費-譲渡費用
- 非上場株式(一般株式等)は他の所得と分けて計算する申告分離課税
- 税率は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)
売買の価額は「適正な時価」で決める必要があります。個人から時価より著しく低い価額で買うと、時価と払った額の差額は、売った人からの贈与とみなされます。株式の場合、このときの時価は相続税評価額が基準です。
| 相続税評価額 | 3,000万円 |
|---|---|
| 後継者が払った額 | 1,000万円 |
| 贈与とみなされる額 | 2,000万円 |
売買のよい点は、社長に代金が入り、他の相続人に渡す財産や老後資金にできることです。一方、後継者は買取資金を用意しなければなりません。社長の手元の代金は、そのまま相続財産になる点にも注意が必要です。
売る相手が法人の場合や、所得税の計算上の時価は、個人間の売買と扱いが異なる場合があります。価額は必ず税理士と相談して決めてください。出典:国税庁 タックスアンサー No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)、No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
相続で渡す場合の注意点
何もしなければ、自社株は相続で引き継がれます。時期を選べないうえに、次の2つの心配があります。
遺留分
- 配偶者や子などには、法律で保障された最低限の取り分(遺留分)がある
- 自社株を後継者に集めると、他の相続人からお金での支払いを請求されることがある
- 生前に贈与した自社株も、遺留分の計算に入る
議決権の分散
- 遺言がないと、株の行き先は遺産分割で決まる
- 遺留分の支払いのために株を手放すと、株が分散する
- 後継者が議決権の過半数を持てないと、経営の判断が難しくなる
中小企業庁も、遺留分の請求に応じるために自社株を処分し、分散してしまう問題を挙げています。対策として、推定相続人全員の合意で、贈与した自社株を遺留分の計算から外す「除外合意」や、価額を合意時の時価で固定する「固定合意」(経営承継円滑化法の民法特例)があります。遺言の書き方とあわせて社長こそ遺言書をで解説しています。
出典:中小企業庁 事業承継と民法<遺留分>、中小企業庁 遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)
事業承継税制との関係と、選び方
株価が高く、贈与税・相続税の負担が大きい会社では、自社株にかかる贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制(特例措置)」も選択肢です。期限と要件は事業承継税制(特例措置)の解説をご覧ください。
| 会社・家族の状況 | 検討しやすい方法 |
|---|---|
| 株価が低く、時間に余裕がある | 暦年課税で少しずつ贈与 |
| 今後の株価上昇が見込まれる | 相続時精算課税で早めに贈与 |
| 他にも子がいて、社長の財産を公平に分けたい | 売買で代金を残す、遺言と民法特例を組み合わせる |
| 株価が高く、税負担が大きい | 事業承継税制(特例措置)を検討 |
実際には、一部を贈与し、残りを売買や相続で渡すといった組み合わせも多くあります。親族内承継・従業員承継・M&Aの違いは事業承継の3つの形と必要な資金、相続税の目安は相続税の無料シミュレーションで確認できます。
よくある質問
自社株を毎年110万円以内で贈与すれば、それで十分ですか?
暦年課税では、1年間にもらった財産の合計が基礎控除110万円以下なら贈与税の対象になりません。ただし、亡くなる前の一定期間(段階的に最長7年)の贈与は相続財産に足し戻されます。自社株の評価額も毎年変わるため、贈与のたびに評価の確認が必要です。
相続時精算課税を選んだあと、暦年課税に戻せますか?
戻せません。一度選ぶと、その贈与者からの贈与にはずっと相続時精算課税が適用されます。2024年1月1日以後の贈与は、年110万円の基礎控除を使えます。
後継者に安い価格で株を売ってもよいですか?
個人から時価より著しく低い価額で買うと、時価と払った額の差額は贈与とみなされ、後継者に贈与税がかかります。株式の時価は相続税評価額が基準です。価額は税理士と相談して決めてください。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。自社株の評価や売買価額、贈与税・相続税の計算は税理士に、遺留分や民法特例などの法律判断は弁護士などの専門家にご相談ください。制度の内容は変わることがあるため、国税庁・中小企業庁の案内でご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
