社長の家族会議の進め方:相続診断士が教える準備と当日の手順
この記事の要点
- 社長の相続は、自社株や事業用の資産が後継者に集まりやすく、遺留分の問題が起きやすい
- 家族会議の前に「財産の一覧」「自社株の評価の目安」「後継者の意向」の3つをそろえる
- 会議で決めたことは遺言書に残す。自筆証書遺言は法務局に預ける制度も使える
「相続の話を家族にどう切り出せばいいか分からない」。会社を経営する方から、よく聞くお悩みです。
社長の相続は、会社員の家庭の相続よりも、話し合いが難しくなりがちです。この記事では、相続診断士の立場から、家族会議の準備と進め方を順番に説明します。
なぜ社長の相続はもめやすいのか
理由は大きく2つあります。
- 財産の多くが自社株や事業用の資産(会社に貸している土地・建物など)で、分けにくい
- 会社を守るには、それらを後継者にまとめて渡す必要がある
後継者に財産が集まると、ほかの子に渡せる財産が少なくなります。ここで問題になるのが「遺留分」です。
遺留分とは、遺言や生前の贈与があっても、一定の相続人に残される最低限の取り分です。
| 相続人の組み合わせ | 遺留分の合計(財産に対する割合) |
|---|---|
| 配偶者と子/子のみ/配偶者のみ | 2分の1 |
| 配偶者と親 | 2分の1 |
| 親のみ | 3分の1 |
| 兄弟姉妹 | 遺留分なし |
この合計を、法定相続分に応じて分けたものが、1人ひとりの遺留分です。
2019年7月1日以降の相続では、遺留分を侵害された人は、侵害された額に相当するお金を請求できます(遺留分侵害額請求)。株や土地そのものを取り戻す形ではありません。そのため、後継者が自社株を受け取ると、ほかの相続人へまとまったお金を払う必要が出ることがあります。
請求できるのは、相続の開始と侵害を知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内です。
出典:政府広報オンライン「知っておきたい相続の基本」、法務省「相続法の改正」、東京家庭裁判所「遺留分侵害額の請求調停を申し立てる方へ」
家族会議の前にそろえる3つの準備
準備なしで集まると、「なんとなく不公平」という気持ちだけが残ります。数字と方針を先にそろえておくことが大切です。
| 準備 | 中身 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 財産の一覧 | 預貯金、自宅、自社株、会社に貸している不動産、生命保険、会社への貸付金、借入金や個人保証 | プラスとマイナスの両方を書き出す |
| 2. 自社株評価の目安 | 国税庁のルールで評価した場合のおおよその額 | 決算書をもとに顧問税理士に試算を依頼する |
| 3. 後継者の意向 | 会社を継ぐ気持ちがあるか、いつごろか | 会議の前に社長と後継者で1対1で確認する |
自社株は、上場株のように値段が決まっていません。会社の規模や利益、純資産によって評価の方法が変わり、思った以上に高くなることもあります。しくみは自社株の相続税評価の記事で解説しています。
財産の一覧ができたら、相続税の無料シミュレーターで、相続税のおおよその額も見ておきましょう。納税のお金をどう用意するかも、家族会議の大事な議題になります。
後継者の意向は、家族全員の前でいきなり聞かないことをおすすめします。本人が迷っているときに、ほかの家族の前で答えを迫ると、話し合いがこじれる原因になります。
財産の一覧づくりや、相続税のおおよその試算をお手伝いします。初回相談は無料です。
当日の進め方の手順表
1回で全部を決めようとしないことがコツです。1回目は「社長の考えを伝えて、家族の気持ちを聞く場」と考えます。
| 順番 | やること | 目安の時間 |
|---|---|---|
| 1 | 集まってもらった目的を伝える(「もめないように、元気なうちに話しておきたい」) | 5分 |
| 2 | 財産の一覧を見せ、自社株や事業用の資産がどれくらいあるかを共有する | 15分 |
| 3 | 会社を誰に、いつごろ継がせたいかという社長の考えを伝える | 10分 |
| 4 | 後継者以外の家族に、何をどう渡したいかを伝える | 10分 |
| 5 | 家族一人ひとりの意見や不安を聞く(反論しないで最後まで聞く) | 20分 |
| 6 | 決まったこと・持ち帰ることを紙にまとめ、次回の日程を決める | 10分 |
- 場所は自宅や貸し会議室など、落ち着いて話せるところにする
- 推定相続人になる人には、全員に声をかける
- 配偶者の意見も必ず聞く。社長の相続後の生活に直結する
- 必要なら、相続診断士やFPなど第三者に同席してもらう
第三者がいると、感情的になりにくく、数字の説明も中立に伝わりやすくなります。
家族会議で話すことチェックリスト
次の項目を、会議の前に印刷して配っておくと話がそれにくくなります。
- 会社を誰が継ぐか(親族内か、従業員か、外部への売却か)
- 自社株をいつ、どう渡すか(生前の贈与か、相続か)
- 会社に貸している土地・建物を誰が受け取るか
- 後継者以外の家族に渡す財産(預貯金、自宅、生命保険など)
- 遺留分に足りない場合、代わりのお金をどう用意するか
- 相続税の納税資金をどう用意するか
- 会社の借入についている社長の個人保証をどうするか
- 配偶者の老後の住まいと生活費
- 遺言書を作るか、どの方式にするか
継ぎ方そのものに迷っている場合は、事業承継の3つの形と必要な資金の記事を先に読んでおくと、話し合いの材料になります。
後継者と、ほかの推定相続人全員が合意できる場合は、「遺留分に関する民法の特例」も選択肢です。後継者に贈与した自社株を遺留分の計算から外す(除外合意)、または合意したときの価額に固定する(固定合意)ことができます。合意のあと、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要です。
出典:中小企業庁「遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)」
決めたことは遺言書につなげる
家族会議で合意しても、口約束のままでは相続のときに効力がありません。決めたことは遺言書に残しましょう。
自分で手書きする「自筆証書遺言」は、法務局に預けられる自筆証書遺言書保管制度があります。
| 自筆証書遺言(自宅で保管) | 自筆証書遺言(法務局で保管) | |
|---|---|---|
| 紛失・書きかえの心配 | ある | 原本と画像データを法務局が保管 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 |
| 相続人への通知 | なし | 指定した人などに通知される |
| 費用 | なし | 保管の申請1件3,900円 |
申請は、住所地・本籍地・持っている不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局(遺言書保管所)で行います。予約が必要で、遺言者本人が出向きます。用紙はA4・片面のみ、余白の決まりなど様式の注意点があります。
法務局で確認されるのは主に形式(方式)です。自社株や不動産の分け方が複雑な場合は、公証人が関わり、無効になるおそれが低い公正証書遺言も検討しましょう。
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度のご案内」、法務省「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」
よくある質問
家族会議には誰を呼べばいいですか?
推定相続人になる人には全員声をかけるのが基本です。一部の人だけで決めると、あとから「聞いていない」と不満が出やすくなります。配偶者の意見も必ず聞きましょう。
遺留分は、遺言書で「渡さない」と書けばなくなりますか?
なくなりません。遺留分は遺言でも奪えない取り分です。侵害された相続人は、侵害額に相当するお金を請求できます。兄弟姉妹には遺留分はありません。
自筆証書遺言を法務局に預けると、何が変わりますか?
紛失や書きかえの心配が減り、相続のときに家庭裁判所の検認が不要になります。申請の手数料は1件3,900円で、本人が予約して法務局へ出向きます。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。遺留分や遺言書の扱いは個別の事情で変わるため、具体的な手続きは弁護士・税理士・法務局などにご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
