退職金は一時金と年金どちらで受け取る?税金・社会保険料の違いを比較
この記事の要点
- 一時金は「退職所得」。退職所得控除を引いて2分の1にし、他の所得と分けて課税される
- 年金は「公的年金等の雑所得」。公的年金等控除を引いたあと、国の老齢年金などと合算される
- 年金で受け取ると所得が増えるため、国民健康保険料などにも影響しやすい。退職所得控除に余裕があるかが判断の出発点
企業年金(DB)、企業型DC、iDeCo、小規模企業共済などは、受け取るときに「一時金」か「年金」かを選べることがあります。
受け取る総額が同じでも、税金の計算方法がまったく違います。この記事では、国税庁の計算式をもとに2つの違いを整理します。
一時金と年金で「所得の区分」が変わる
| 受け取り方 | 所得の区分 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 一時金 | 退職所得 | 会社の退職金、DB・DCの一時金、小規模企業共済の一括受け取りなど |
| 年金 | 公的年金等の雑所得 | 国民年金・厚生年金、確定給付企業年金、確定拠出年金、小規模企業共済の分割受け取りなど |
国税庁は、確定給付企業年金や確定拠出年金の年金を、国の年金と同じ「公的年金等」に含めています。民間の生命保険の年金は公的年金等にあたりません。
小規模企業共済の受け取り方の条件は、小規模企業共済の受け取り方の記事で詳しく説明しています。
出典:国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係、国税庁 高齢者と税(年金と税)
一時金:退職所得の計算
退職所得は次の式で計算します。
(収入金額 - 退職所得控除額)× 2分の1 = 退職所得の金額
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たないときは80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) |
- 他の所得と分けて税額を計算する(分離課税)
- 住民税も分離課税で、退職所得の金額に10%(市町村民税6%、道府県民税4%)をかけて支払時に差し引かれる
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、原則として確定申告は不要
- 勤続5年以下の役員等の退職金は2分の1が使えない。5年以下の従業員等の退職金も、300万円を超える部分は2分の1が使えない
計算例(例)
勤続30年の従業員が、一時金2,000万円を受け取った場合の例です。
| 退職所得控除額 | 800万円 + 70万円 ×(30年 - 20年)= 1,500万円 |
|---|---|
| 退職所得の金額 | (2,000万円 - 1,500万円)× 2分の1 = 250万円 |
| 所得税 | 250万円 × 10% - 97,500円 = 152,500円 |
| 復興特別所得税を含む | 152,500円 × 1.021 ≒ 155,702円 |
| 住民税 | 250万円 × 10% = 250,000円 |
| 税金の合計(目安) | 約405,700円(手取り 約1,959万円) |
2,000万円に対して税金は約2%です。控除と2分の1の効果が大きいことが分かります。ご自身の数字は退職金の手取り計算ツールや退職金の手取り早見表で確かめられます。
例は説明のための仮の数字です。所得税の速算表(課税所得195万円以上330万円未満は10%、控除額97,500円)を使っています。端数処理は実際の計算と異なる場合があります。出典:国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき、国税庁 No.2260 所得税の税率、総務省 退職所得に対する住民税の特別徴収
会社の退職金、DC、共済。いくつもある退職金の受け取り方を、まとめて整理します。
年金:公的年金等の雑所得の計算
年金は、その年の公的年金等の収入の合計から公的年金等控除額を引いて所得を計算します。国の老齢年金も企業年金も、すべて合算してから控除を引きます。
| 公的年金等の収入金額 | 65歳未満 | 65歳以上 |
|---|---|---|
| 60万円以下 | 0円 | 0円 |
| 60万円超110万円以下 | 収入 - 60万円 | 0円 |
| 110万円超130万円未満 | 収入 - 60万円 | 収入 - 110万円 |
| 130万円以上330万円未満 | 収入 × 0.75 - 27万5千円 | 収入 - 110万円 |
| 330万円以上410万円未満 | 収入 × 0.75 - 27万5千円 | |
| 410万円以上770万円未満 | 収入 × 0.85 - 68万5千円 | |
表の金額は「公的年金等に係る雑所得の金額」です。公的年金等以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合で、770万円以上は省略しています。
計算例(例)
65歳以上で、国の老齢年金が年200万円の人が、企業年金を年100万円受け取る場合の例です。
| 国の年金のみ | 企業年金を加えた場合 | |
|---|---|---|
| 公的年金等の収入 | 200万円 | 300万円 |
| 雑所得の金額 | 200万円 - 110万円 = 90万円 | 300万円 - 110万円 = 190万円 |
この例では、企業年金の100万円がそのまま所得に上乗せされます。公的年金等控除は国の年金で使われているため、企業年金分には効きません。
- 他の所得(役員報酬、不動産収入など)と合算され、累進税率で課税される
- 年金の支払時に所得税が源泉徴収される
- 公的年金等の収入が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下なら確定申告は不要。ただし住民税の申告が必要な場合がある
例は説明のための仮の数字です。出典:国税庁 高齢者と税(年金と税)、国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
比較表:一時金と年金の違い
| 一時金 | 年金 | |
|---|---|---|
| 所得の区分 | 退職所得 | 公的年金等の雑所得 |
| 控除 | 退職所得控除(勤続年数で決まる) | 公的年金等控除(年齢と年金額で決まる) |
| 2分の1 | あり(勤続5年以下の役員等などは例外) | なし |
| 他の所得との関係 | 分けて計算(分離課税) | 合算して計算(総合課税) |
| 国民健康保険料など | 保険料計算の所得に含まれない | 保険料計算の所得に含まれる |
| お金の受け取り | まとまった資金がすぐ手に入る | 毎年、決まった額が入る |
国民健康保険料の所得割は、多くの市区町村で「総所得金額等」をもとに計算します。たとえば大阪市は、年金所得を含め、退職所得は含めないと案内しています。75歳以上の後期高齢者医療保険料や介護保険料も所得で決まるため、年金で受け取る場合はあわせて確認が必要です。
保険料の計算方法は市区町村や制度で異なります。出典:大阪市 国民健康保険料の決め方
どちらが向くかの考え方
一時金が向きやすい人
- 勤続年数が長く、退職所得控除の枠に余裕がある
- 国の年金や他の所得が多く、年金を上乗せすると税率が上がる
- 住宅ローンの返済などで、まとまった資金が必要
年金が向きやすい人
- 会社の退職金だけで退職所得控除を使い切る
- 国の年金が少なく、公的年金等控除の枠が残っている
- 一度に大金を持つより、毎年の収入として受け取りたい
判断の順番は次のとおりです。
- 会社の退職金、DC、共済など、受け取る退職金をすべて書き出す
- 退職所得控除の枠を計算し、一時金で収まる額を確かめる
- 枠を超える分は、年金にした場合の所得と保険料への影響を比べる
- 一部を一時金、残りを年金にする「併用」ができる制度もあるので確認する
受け取る順番にも注意が必要です。2026年1月1日以後に確定拠出年金の老齢一時金を受け取る場合、その前年以前9年内(2025年までに受け取ったものは4年内)に受け取った他の退職金があると、勤続期間の重なりが調整され、退職所得控除が小さくなることがあります。
社長の場合は、役員退職金と小規模企業共済、DCの受け取り時期が重なりやすくなります。会社の制度づくりは企業型DCの導入記事、役員退職金の目安は役員退職金の相場の記事もご覧ください。
出典:国税庁 令和8年版 源泉徴収のあらまし 税制改正等の内容、国税庁 No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき
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よくある質問
一時金と年金、どちらが得ですか?
人によって変わります。退職所得控除の枠に収まるなら一時金の税負担は小さくなりやすく、枠を超える分や国の年金が少ない人は年金のほうが有利になることがあります。他の退職金や年金額とあわせて計算して決めます。
年金で受け取ると国民健康保険料は上がりますか?
上がる可能性があります。公的年金等の雑所得は国民健康保険料の計算に使う所得に含まれ、退職所得は含まれないのが一般的です。計算方法は市区町村ごとに確認してください。
一時金を受け取ったら確定申告は必要ですか?
「退職所得の受給に関する申告書」を支払者に出していれば、原則として確定申告は不要です。医療費控除などを受ける場合は申告が必要です。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。受け取り方の選択肢や条件は制度ごとに異なるため、各制度の案内や税務署、市区町村でご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
