役員退職金を分割で払うときの注意点:損金算入の時期・退職所得・分掌変更
この記事の要点
- 会社の経費(損金)にできるのは、原則として株主総会で額が決まった事業年度。実際に払った事業年度に損金経理する方法も認められています
- 退職を理由に総額が決まった退職金は、分割で払っても退職所得として扱われます。源泉徴収は総額で計算し、各回の支給額で分けます
- 分掌変更(社長を退いて会長に残るなど)の退職金は、未払金に計上した分は原則として退職給与に含まれません。分割払いは特に慎重に
社長の退職金は数千万円になることもあります。一度に払うと会社の資金が足りない、という理由で分割払いを考える会社は少なくありません。
分割払い自体はできます。ただし、会社の経費にする時期、受け取る側の税金、分掌変更の場合の扱いに注意が必要です。国税庁の通達と質疑応答で確認できた範囲で整理します。
会社の経費になる時期(9-2-28)
法人税基本通達9-2-28では、役員の退職金を損金に入れる時期を次のように定めています。
| 原則 | 認められている方法 | |
|---|---|---|
| 損金にする年度 | 株主総会の決議などで額が具体的に決まった事業年度 | 実際に支払った事業年度 |
| 条件 | 決議で額が確定していること | 支払った額について損金経理をすること |
| 分割払いの場合 | 決議した年度に総額を計上(まだ払っていない分は未払金) | 払うたびに、その年度に払った額を損金経理 |
どちらを選ぶかで、利益が出る年度と出ない年度が変わります。決議した年度に大きな赤字になる場合などは、顧問税理士と年度ごとの法人税を比べて決めるのが安全です。
なお、退職金の額そのものが高すぎると、損金に入らない部分が出ます。適正額の考え方は役員退職金の相場と適正額の決め方をご覧ください。
出典:国税庁 法人税基本通達 第7款 退職給与(9-2-28)、国税庁 No.5208 役員の退職金の損金算入時期
分割でも退職所得になるか
所得税基本通達30-1では、退職手当等を「退職しなければ支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与」としています。
「一時に」とありますが、国税庁の質疑応答では、株主総会で総額を決めたうえで資金繰りの都合により2回に分けて払う事例について、退職所得として扱う前提で源泉徴収の計算を示しています。
考え方のポイントは次のとおりです。
- 退職を理由に、支払う総額が先に決まっている
- 分割は、あくまで支払い方法の問題である
- 源泉徴収は、総額で税額を計算し、各回の支給額の割合で分ける
質疑応答の事例(勤続38年、総額5,000万円を3,000万円と2,000万円に分けて支給)では、次の計算になっています。
| 退職所得控除額 | 800万円 + 70万円 ×(38年 − 20年)= 2,060万円 |
|---|---|
| 退職所得の金額 | (5,000万円 − 2,060万円)× 2分の1 = 1,470万円 |
| 総額に対する所得税・復興特別所得税 | 3,384,615円 |
| 1回目(3,000万円)の源泉徴収 | 3,384,615円 × 5分の3 = 2,030,769円 |
| 2回目(2,000万円)の源泉徴収 | 3,384,615円 × 5分の2 = 1,353,846円 |
ご自身の手取りの目安は、退職金の手取り計算ツールで確認できます。
勤続5年以下の役員などに当たる場合(特定役員退職手当等)は、2分の1にする計算が使えません。出典:国税庁 所得税基本通達 法第30条関係(30-1)、国税庁 質疑応答事例 退職金を分割支給した場合の源泉徴収税額の計算、国税庁 No.2728 退職所得の収入金額の収入すべき時期
退職金の総額と、会社が払える時期・金額を並べて、無理のない支払い計画を一緒に考えます。
資金繰りとの関係
分割払いは、会社の資金が一度に出ていくのを防げます。一方で、払い終わるまで会社に支払いの義務が残ります。
分割にする良いところ
- 一度に多くの資金が出ていかない
- 運転資金を残したまま退職金を払える
- 払った年度に損金経理する方法を選べば、損金を複数年度に分けられる
気をつけたいところ
- 業績が落ちても支払い義務は残る
- 後継者や金融機関に、未払いの退職金を説明する必要がある
- 支払いが長引くと、退職金として払った経緯が分かりにくくなる
理想は、退職の時期に合わせて財源を先に準備しておくことです。何年後に、いくら必要かが分かれば、積み立て方も決められます。
決議や規程に書いておくこと
分割払いにするなら、あとから見ても「退職を理由に総額が決まり、支払い方法として分けた」と分かる形にしておきます。
| 書いておくこと | 内容の例 |
|---|---|
| 支給総額 | 退職金の総額を金額で決める |
| 支払い回数と時期 | 何回に分けて、いつ、いくら払うか |
| 分割の理由 | 会社の資金繰りの都合であること |
| 規程との関係 | 役員退職金規程の計算式に基づく額であること |
| 規程側の定め | 支給時期・支給方法の条文に「分割して支給することがある」と入れておく |
規程の作り方と入れる項目は、役員退職金規程の作り方で解説しています。
分掌変更の場合の注意(9-2-32)
社長を退いて会長や非常勤の役員として残る場合でも、役員としての地位や職務の内容が大きく変わり、実質的に退職したのと同じと言える場合は、退職給与として扱えることがあります(法人税基本通達9-2-32)。
| 通達の例示 | 除かれる主な場合 |
|---|---|
| 常勤役員が非常勤役員になった | 代表権がある、または実質的に経営上主要な地位にある |
| 取締役が監査役になった | 実質的に経営上主要な地位にある、など |
| 役員報酬がおおむね50%以上減った | 実質的に経営上主要な地位にある |
この通達には注書きがあり、退職給与には、原則として会社が未払金などに計上した額は含まれないとされています。
つまり、分掌変更の退職金を分割払いにして、まだ払っていない分を未払金にすると、その分は退職給与と認められない可能性があります。分掌変更で退職金を払うなら、一度に払える資金を用意しておくのが基本です。分割を考える場合は、事前に顧問税理士と確認してください。
出典:国税庁 法人税基本通達 第7款 退職給与(9-2-32)
よくある質問
役員退職金は何回まで分割できますか?
回数の上限を定めた規定は、国税庁の通達や質疑応答では確認できませんでした。ただし支払いが長引くほど、退職を理由に一時に払う給与という性格が分かりにくくなります。総額と支払い予定を決議で明確にし、短い期間で払い終えるのが安全です。
分割で払うと、受け取る側の税金は増えますか?
国税庁の質疑応答では、総額について税額を計算し、各回の支給額で分けて源泉徴収する方法が示されています。総額が同じなら、分割したことで計算の基になる退職所得の金額が変わるわけではありません。
分掌変更の退職金を、払える分だけ先に払うことはできますか?
法人税基本通達9-2-32の注書きで、未払金などに計上した額は原則として退職給与に含まれないとされています。後から払う分が退職給与と認められない可能性があるため、事前に顧問税理士と確認してください。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。税務上の扱いは個別の事情で変わることがあるため、実際に支給する前に顧問税理士や税務署にご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
