社員の定着率を上げる退職金制度の設計:勤続年数・自己都合の差・規程の書き方
この記事の要点
- 定着につなげるなら「勤続が長いほど増え方が大きくなる」形にします。自己都合と会社都合の差、勤続3年未満の扱いも規程で決めます。
- 中退共は退職理由で額が変わらず、本人に直接支払われます。差をつけたい部分は、社内の規程で上乗せする形が向きます。
- 企業型DCは勤続3年未満の退職者について、規約で定めれば事業主掛金に相当する額を会社に戻せます。
「退職金制度を作るなら、社員に長く働いてもらえる形にしたい」。そうしたご相談をよくいただきます。
同じ掛金でも、設計の仕方で定着への効き方は変わります。考え方と、規程に書くことを順に説明します。
中小企業の退職金制度の現状
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」では、退職給付制度がある企業は全体で74.9%でした。規模が小さいほど割合は下がります。
| 企業規模 | 退職給付制度がある企業 |
|---|---|
| 1,000人以上 | 90.1% |
| 300〜999人 | 88.8% |
| 100〜299人 | 84.7% |
| 30〜99人 | 70.1% |
| 全体 | 74.9% |
退職一時金の準備方法(複数回答)を見ると、30〜99人の企業では「社内準備」が49.6%、「中退共」が48.5%でした。中小企業では、社内で準備するか中退共を使うかがほぼ半々です。
調査は常用労働者30人以上の民営企業が対象で、2023年1月1日現在の状況です。出典:厚生労働省 令和5年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)制度、同 調査の概況
定着につながる設計の4つのポイント
退職金で定着を後押しするには、「もう少し勤めると、もらえる額がはっきり増える」と社員が感じられることが大切です。
| ポイント | 考え方 |
|---|---|
| 増え方のカーブ | 勤続年数に比例させるより、10年、20年と長くなるほど1年あたりの増え方を大きくします。 |
| 自己都合と会社都合 | 自己都合の退職は、会社都合や定年より低い支給率にするのが一般的です。差は勤続が長いほど小さくすると、長く勤めた人の不利感を抑えられます。 |
| 勤続3年未満の扱い | 「自己都合で勤続○年未満は支給しない」と決める方法があります。厚労省のモデル就業規則にも、この形の条文があります。 |
| 懲戒解雇 | 全部または一部を支給しないことがある、と規程に書いておきます。 |
ただし、カーブを急にしすぎると、若い社員には「自分には関係ない制度」に見えます。早い段階から少しずつ積み上がることも伝えましょう。
社員の年齢と勤続年数から、無理のない支給率のカーブを一緒に考えます。
中退共・企業型DC・社内積立の違い
どの制度で準備するかによって、短期退職や退職理由の扱いが変わります。
| 中退共 | 企業型DC | 社内積立 | |
|---|---|---|---|
| 短期で辞めたとき | 加入11か月以下は支給なし。12〜23か月は掛金の合計を下回る | 勤続3年未満なら、規約で定めれば事業主掛金に相当する額を会社に戻せる | 規程で自由に決める |
| 自己都合と会社都合の差 | つけられない(掛金と納付月数で決まる) | つけられない | 規程で自由に決める |
| 長く勤めたとき | 43か月以降は運用利息や付加退職金が加わる | 運用次第で増減 | 規程の支給率どおり |
| 受け取る時期 | 退職したとき | 原則60歳から | 規程で決める |
| お金の流れ | 機構から本人に直接 | 本人の口座で運用 | 会社から本人へ |
- 中退共の掛金は月5,000円〜30,000円の16種類です。掛金を減らすには、従業員の同意か厚生労働大臣の認定が必要です。
- 中退共でも、懲戒解雇などで厚生労働大臣が相当と認めたときは、退職金を減額して支給できます。
- 企業型DCは原則60歳まで引き出せないため、「辞めたら今すぐもらえる」という形では効きません。老後資金として持ち運べる点が、採用の魅力になります。
- 社内積立は自由度が高い反面、支払いのときに会社の資金が必要です。社員の退職が重なる年に備えた資金計画が欠かせません。
DCで会社に戻せるのは事業主掛金に相当する部分で、既存の退職金制度から移した資産は対象外です。出典:中退共 退職金、厚生労働省 中退共制度、中退共制度のあらまし(鳥取労働局掲載)、確定拠出年金法 第3条、厚生労働省 確定拠出年金Q&A(No.76・78)
おすすめの組み合わせ方
中退共は手軽で、新しく入ると国の掛金助成もあります。一方で、退職理由による差はつけられません。そこで、次のように役割を分ける方法があります。
| 役割 | 制度の例 |
|---|---|
| 全員の土台 | 中退共(一定の掛金で全員加入) |
| 長く勤めた人への上乗せ | 社内規程による上乗せ支給 |
| 老後資金づくり・採用の魅力 | 企業型DC |
中退共と社内規程を組み合わせるときは、「規程で計算した額より中退共の額が少なければ、差額を会社が払う」と書いておくのが基本です。中退共の助成は中退共の助成金の記事、DCとの組み合わせは中退共と企業型DCの併用の記事、制度ごとの比較は従業員の退職金制度の比較記事をご覧ください。
退職金規程に書くこと
退職金制度は義務ではありませんが、作るなら就業規則(退職金規程)に定める必要があります。
- 適用される人の範囲:正社員のみか、パートタイマーを含めるか
- 支給の条件:勤続○年以上、自己都合で勤続○年未満は支給しない、など
- 額の計算方法:基本給×勤続年数別の支給率、自己都合と会社都合の率の違い
- 勤続年数の数え方:休職期間や試用期間を入れるか
- 支払いの方法と時期:退職から何か月以内に払うか、亡くなった場合は遺族に払うこと
- 減額・不支給:懲戒解雇などの場合の扱い
- 外部制度との調整:中退共などから支払われる額を差し引く、または差額を会社が払うこと
- 定年後の再雇用:定年時に支給し、再雇用後の期間は対象にしないか
一度決めた退職金を下げるのは、社員にとって不利益な変更です。最初から無理のない水準で作ることが、結果として長く続く制度になります。
厚労省のモデル就業規則では、退職金の支払いに保全の努力義務があるものの、中退共などに加入している場合は不要とされています。出典:厚生労働省 モデル就業規則 第8章 退職金
よくある質問
中退共で、自己都合の退職者だけ退職金を減らせますか?
できません。中退共の退職金は掛金と納付月数で決まり、退職理由で変わりません。自己都合との差をつけたい場合は、社内規程の上乗せ部分で差をつけます。懲戒解雇などは、厚生労働大臣が相当と認めたときに減額できます。
入社してすぐ辞めた社員にも、中退共の退職金は出ますか?
加入から11か月以下で辞めた場合は支給されません。12か月から23か月は掛金の合計を下回り、24か月から42か月は掛金の合計と同じ額です。
企業型DCで、すぐに辞めた社員の掛金は会社に戻りますか?
勤続期間が3年未満の社員が資格を失ったとき、規約で定めていれば、事業主掛金に相当する額の全部または一部を会社に戻せます。3年は加入期間ではなく、その会社に勤めた期間で数えます。
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この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断を行うものではありません。退職金規程の作成や変更は、社会保険労務士など専門家にもご確認ください。中退共や企業型DCの内容は変わることがあるため、各制度の案内でご確認ください。内容は2026年10月時点のものです。
